




『VIVANT』に登場する個性的なキャラクターの中でも、ひときわ異彩を放っているのが「ドラム」です。
阿部寛さん演じる公安刑事・野崎守をサポートし、大きな体からは想像できないほど機敏に動く。一方で普段は笑顔を絶やさず、どこか憎めない愛嬌があります。
しかも自分ではほとんど言葉を発さず、スマートフォンの音声を使って意思を伝えるという異色のキャラクター。
「このドラムを演じている人はいったい何者なのだろう?」
そう思った人も多いのではないでしょうか。
ドラムを演じる富栄ドラムさんは、もともと俳優として長いキャリアを持っていた人物ではありません。
実は13年間も大相撲の世界で生きてきた元力士です。
さらに驚くのは、『VIVANT』のオーディションでも最初からドラム役を受けていたわけではないこと。
別の役のオーディションで福澤克雄監督の目に留まり、人生を変える役と出会いました。
元力士だった富栄ドラムさんは、なぜ『VIVANT』の人気キャラクターになることができたのでしょうか。
その異色の経歴をたどってみます。
『VIVANT』ドラム役・富栄ドラムは何者?
富栄ドラムさんは1992年4月11日生まれ、兵庫県神戸市出身。
本名は冨田龍太郎さんです。
現在は「富栄ドラム」という名前で俳優・タレントとして活動していますが、「富栄」はもともと大相撲時代の四股名です。
日本相撲協会の記録によると、中学卒業後の2008年3月場所で初土俵。
伊勢ヶ濱部屋に所属し、最高位は幕下6枚目まで上がりました。
2021年3月場所を最後に引退しているため、約13年間を大相撲の世界で過ごしたことになります。
『VIVANT』で初めて知った人には、愛嬌のあるドラムのイメージが強いかもしれません。
しかし、その前半生の大部分は厳しい勝負の世界にありました。
13年間の相撲人生、最高位は幕下6枚目
大相撲で「幕下6枚目」という位置は、一般には少し分かりにくいかもしれません。
大相撲では、幕内、十両までが「関取」と呼ばれ、その下に幕下があります。
つまり幕下6枚目まで上がった富栄さんは、関取の一歩手前まで迫っていたことになります。
決して「少し相撲をやっていた」というレベルではありません。
十両昇進を目指し、本気で大相撲の世界を生きていた力士でした。
身長は日本相撲協会のプロフィールで167.9センチ。
大型化した現代の力士の中ではかなり小柄です。
それでも122キロの体を作り、幕下上位まで勝ち上がったことを考えると、高い身体能力を持っていたことがうかがえます。
本人は後のインタビューで、13年間の相撲人生を「修行」のようなものだったと振り返っています。
目標は十両昇進。
しかし結果が出ない時期にも、すぐ先を見るのではなく、もっと長い時間を見据えて稽古を続けていたといいます。
この13年間で身につけた忍耐力は、後の俳優人生にもつながっていきます。
実は昔から「人を楽しませること」が好きだった
富栄さんの経歴で興味深いのは、相撲とはまったく違う一面です。
実は子どものころから、人を笑わせることが大好きでした。
小学生時代には「学校で一番面白いと言われたい」と、テレビのコントを録画してノートに文字起こしし、それを覚えて友人たちの前で披露していたといいます。
相撲部屋に入ってからもその性格は変わりません。
伊勢ヶ濱部屋の新年会で行われる一発芸大会では、約10年連続で優勝していたそうです。
『VIVANT』で見せるドラムのコミカルな表情を考えると、意外なようで、どこか納得できるエピソードでもあります。
俳優になったから突然「人を楽しませる人」になったわけではなかったのです。
むしろ相撲取りとして過ごしていた時代から、現在のドラムにつながる素質はすでにあったのでしょう。
2021年に力士を引退、YouTubeから芸能の世界へ
しかし、富栄さんは十両に昇進することなく2021年に現役を引退します。
13年間続けてきた相撲人生に終止符を打ちました。
普通なら、ここでまったく違う第二の人生を探すことになるでしょう。
ところが富栄さんには、以前から芸能界への興味がありました。
本人によると、力士として出世して有名になり、メディアや芸能活動でも活躍したいという思いを持っていたそうです。
つまり「相撲で有名になる」こと自体が最終目的ではなく、その先には人を楽しませたいという思いがあったわけです。
引退後はYouTubeを中心に活動。
そして、自分の体格や運動神経を生かせる俳優という世界へ進んでいきます。
とはいえ、この時点では俳優として大きな実績があったわけではありません。
そんな富栄さんの人生を一変させる作品が『VIVANT』でした。
『VIVANT』出演は「エキストラのオーディション」から始まった
富栄ドラムさんの経歴で最も面白いのが、『VIVANT』出演が決まった経緯でしょう。
実は最初からドラム役のオーディションを受けたわけではありません。
富栄さんが参加したのは、劇中に登場するバルカ警察のエキストラのオーディションでした。
モンゴル人の参加者たちと一緒に、モンゴル語のセリフを話す審査を受けたといいます。
そこで富栄さんを見ていたのが、『VIVANT』の原作・演出を手掛ける福澤克雄監督でした。
福澤監督は富栄さんを見て、別の役に合うと考えます。
そして俳優としてやっていく覚悟を確認された富栄さんが「覚悟はあります」と答えたことで、話は大きく動き始めました。
用意された役こそ「ドラム」だったのです。
エキストラのオーディションを受けに行った元力士が、主要キャラクターに抜擢される。
まさに人生が一日で変わったような出来事です。
なぜドラムは喋らない?林原めぐみの声との組み合わせ
こうして誕生したドラムですが、その最大の特徴が「自分で喋らない」ことです。
可愛いイメージキャラクターを壊さないために喋らない設定になっています。
日本語を理解しているものの、自ら話す代わりにスマートフォンの翻訳アプリを使って意思を伝えます。
そしてスマートフォンから流れる声を担当しているのが、声優の林原めぐみさんです。
『新世紀エヴァンゲリオン』の綾波レイ、『名探偵コナン』の灰原哀など、数々の人気キャラクターを演じてきた声優です。
元力士の大きな男性がスマートフォンを操作すると、そこから女性の声が流れてくる。
文字だけで説明すると不思議な設定ですが、『VIVANT』の中ではこれが見事にドラムの個性になっています。
そして「喋らない」という設定は、俳優経験の少なかった富栄さんに別の難しさも与えました。
言葉が使えない以上、表情や体の動きで感情を伝えなければならないからです。
本人も、相手が話しているときやスマートフォンから音声が流れている間に、どんな表情をすればいいのか難しかったと振り返っています。
しかし結果的には、その制約こそがドラム最大の魅力になりました。
なぜドラムはこれほど人気キャラクターになったのか
『VIVANT』はシリアスな場面が多い作品です。
テロ組織、公安、別班、国家規模の陰謀。
誰が味方で誰が敵なのか分からず、登場人物の何気ない一言まで疑ってしまうような緊張感があります。
その中に登場するドラムは、かなり特殊な存在です。
大柄で圧倒的な存在感がありながら、表情は柔らかい。
優秀で頼りになるのに、どこかかわいらしい。
しかも喋らない。
緊張感の続く物語の中で、ドラムが登場すると少し空気が変わります。
いわば作品の「癒やし」のような役割も担っています。
しかし、ただかわいいだけではありません。
いざというときには野崎を助け、高い身体能力と行動力を見せる。
「かわいい」と「頼もしい」が同時に存在している。
これがドラムというキャラクターの大きな魅力ではないでしょうか。
元力士だったことがドラム役の強みになった
そして、このキャラクターは誰が演じても成立したとは限りません。
富栄さんには13年間の相撲人生があります。
約122キロという大きな体。
幕下上位まで勝ち上がった身体能力。
厳しい稽古に耐えてきた忍耐力。
さらに昔から人を笑わせることが好きだった性格。
これらが一つになって生まれたのが『VIVANT』のドラムだったと考えると、とても興味深いものがあります。
特に面白いのは、相撲の世界では弱点にもなり得た「小柄さ」や、勝負とは直接関係なかった「コミカルな表情」が、俳優の世界では個性になったことです。
人生のある場所では評価されなかったものが、別の場所では最大の武器になる。
富栄ドラムさんの経歴には、そんな面白さがあります。
『VIVANT』の役名「ドラム」をそのまま芸名に
『VIVANT』出演後、富栄さんは芸名を「富栄ドラム」としました。
「富栄」は力士時代の四股名。
「ドラム」は『VIVANT』で演じた役名です。
つまり現在の芸名には、相撲時代と俳優としての出発点の両方が入っています。
本人は『VIVANT』のドラムが本格的な俳優人生のスタート地点であり、「初心に戻れる」という意味も込めて芸名にしたことを明かしています。
一つの役があまりにも当たり役になったため、役名そのものが俳優名になった。
それだけでも、『VIVANT』が富栄さんの人生に与えた影響の大きさが分かります。
2026年の『VIVANT』でもドラムは重要な存在に
そしてドラムは、2023年の『VIVANT』だけで終わったキャラクターではありません。
2026年に放送されている『VIVANT』でも富栄ドラムさんは出演し、林原めぐみさんも声の出演として名を連ねています。
さらに、ドラムを主人公とする「ドラム VIVANT THE ORIGIN STORY」も制作されました。
当初はエキストラのオーディションを受けに来た無名の元力士だった人物が、数年後にはスピンオフの主人公になる。
改めて考えると、かなり異例の展開です。
福澤監督がオーディションで見つけた「ドラム」というキャラクターが、作品にとって欠かせない存在へ成長したことを象徴しているようにも感じます。
まとめ|13年間の相撲人生は決して遠回りではなかった
『VIVANT』のドラム役として知られる富栄ドラムさん。
その人生を振り返ってみると、
中学卒業後に大相撲の世界へ入り、13年間力士として過ごす。
最高位は幕下6枚目。
十両を目指しながらも夢は叶わず、2021年に引退。
その後YouTubeなどを経て芸能の世界へ進み、『VIVANT』のエキストラオーディションに参加。
そこで福澤克雄監督の目に留まり、ドラム役に抜擢されました。
そしてドラマが始まると、一躍人気キャラクターになります。
こうして見ると、一見まったく違う「力士」と「俳優」という二つの人生は、不思議なほどつながっています。
相撲で培った体と運動能力。
13年間厳しい世界で耐えてきた忍耐力。
そして、子どものころから持っていた「人を楽しませたい」という気持ち。
どれか一つが欠けても、私たちが知っているドラムは生まれなかったのかもしれません。
関取になるという夢は叶わなかった。
しかし、そこで積み重ねた13年間が無駄になったわけではなく、まったく予想していなかった場所で大きな武器になりました。
エキストラのオーディションを受けに行った元力士が、『VIVANT』を代表する人気キャラクターになる。
富栄ドラムさんの経歴を知ると、ドラムを見る目も少し変わってくるのではないでしょうか。



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